- 2009年6月19日
「完璧なアウェー。その中で気持ち良く勝ちたいです」
川尻達也インタビュー- 7・13『FieLDS K-1 WORLD MAX 2009 World Championship Tournament -FINAL8-』(日本武道館)で“反逆のカリスマ”魔裟斗との対戦が決定した川尻達也。ロングインタビューでその心境を語った。
■「ファイターと引退を決意した人間では、精神的な違いはあると思います」
──ついに魔裟斗戦が決まりましたね。
川尻 決まりました。
──今の心境はいかがですか?
川尻 紛れもなくK-1ルールでは世界一の選手なんで、楽しみですね。興奮してます。
──燃えていますね。
川尻 一番、強い奴とできるってのはなかなかないんでね。総合の俺ができるってのは楽しみですね。
──HERO’SのトップだったJ.Z.カルバン選手を倒して、文句なしのカード実現となりました。
川尻 次はMAXのトップですね。1年でそんなにできる人もいないと思うし、俺しかできないことをしたいなって思います。
──かなり注目度は高いです。
川尻 そうですね。俺が一番、燃えてるかな(笑)。
──カルバン戦のあと、魔裟斗選手に宣戦布告しましたが、願いが叶いましたね。
川尻 願いっていうか…向こうに言われたから受けただけで、僕の願いってわけじゃないですけど…面白いんじゃないですか。向こうもこだわっているものがあると思うから、それをぶつけ合って、何倍にも膨らませられればいいですね。
──川尻選手のこだわりとは?
川尻 僕は強さと、今はDREAMのベルトです。それが一番、僕の中では大切なもの。
──では魔裟斗選手のこだわりとは、どんな部分だと思いますか。
川尻 なんですかね。こだわりっていうか、引退って口に出しているんでね。ファイターとして思うのは、自分で引退を口にした時点で、ファイターとして優しさが出ちゃったり、そういうことはあると思います。僕とは違うかな。僕は引退しないし、KOで負けても引退はない。そういう精神的な違いはあると思います。
──精神的な部分では、自分の方が強いと。
川尻 ファイターと引退を決意した人間では、ファイターの方が強いと思います。
──リング上で川尻選手が対戦をアピールしたのは、やはり魔裟斗選手の発言があったからですか。
川尻 そうっすね。それに盛り上がるかなって。本人が(その場に)いなかったから、ポカーンとしちゃったけど。
──周りの反応は?
川尻 「本当にやるの?」みたいな感じです。結構、期待してくれてるみたいですよ。
──山田武士トレーナーはなんと?
川尻 好きにしろって(笑)。リングの上でマイクアピールをする前に確認したんですよ。呼び止めて、「魔裟斗と闘っていいですか?」って訊いたら、「好きにしろ」って言われたんで。
──魔裟斗対策の特訓は?
川尻 今はK-1用にある程度、自分の体を変えている途中ですね。
──川尻選手に不利なルールですが、何か提案はしなかったのですか。
川尻 ないっすね。総合でやったら、僕が余裕で勝っちゃうのは分かってるんで。魔裟斗選手が強いのは、K-1ルールだけじゃないですか。僕はMMAでも結果を出しているし、K-1ルールも去年、KOで結果を出しています。それだったら僕がK-1で闘った方が面白いし、勝負になるんじゃないですかね。
──魔裟斗選手に対して、どんな印象を持っていましたか?
川尻 すごいな、カッコいいな、強いな。やっぱり有言実行だし、やることやって結果を出している。素晴らしい格闘家、K-1ファイターなんじゃないですかね。
──同い年ですが、意識する部分は。
川尻 ないですね。交わるとは思ってなかったから、普通にファンとして見ていました。1年前には、まさか自分が闘うなんて思ってなかったから。
──未来は分かりませんね。
川尻 人生って、どうなるか分からないですね。
■「タレントになって頑張ってもらえればいいんじゃないですか」
──実は昨年の大晦日に対戦する話もあったそうですね。
川尻 最初、魔裟斗選手との試合のオファーが来ました。そのときは向こうのドクターストップで実現しなかったけど。
──最初、それを聞いたときの心境は。
川尻 マジかよってビックリしました。俺がやる必要あるのかなって。
──それでもオファーを受けたんですよね。
川尻 それしかオファーがなかったし、逃げ場がなかった…逃げたくもなかったです。
──そのときは、闘う理由がそこまでなかったと。
川尻 なかったですね。逃げ出したかったです。K-1ルールで闘う自体、なんでかな、やりたくないなって思ってました。
──ですが、今は…。
川尻 今は1回、経験して未知のものに対する恐怖感もないし、うまく魔裟斗選手を利用できればいいかなって感じです。
──川尻選手のメリットとは。
川尻 たくさんの人に自分の名前を知ってもらって、試合を観てもらえることです。
──魔裟斗選手の引退を初めて聞いたときの印象は?
川尻 そうじゃないかなって、なんとなく思ってました。ああいう試合して、あれ以上のものを求められても難しいだろうし、あれでやり切った感はあると思うんです。引退の仕方としては、キレイな最高の形なんじゃないですか?
──魔裟斗選手の引退に関しては、肯定派ですか。
川尻 肯定派っていうか、引退ばっかりは本人の好きですからね。俺がそういう辞め方するかっていったら、しないと思う。同じ考えではないんで。引退に関しては、誰かの意見じゃなくて自分で決めるのがいいと思っているんで、そういう意味では理想なんじゃないですか。
──川尻選手が魔裟斗選手の立場だったら、引退はしないと。
川尻 なったことないから分からないけど、僕はしないと思います。格闘技が好きだから、もっともっと続けたいと思うでしょうね。格闘技が楽しいから。盛り上げたいのもあるけど、一番は自分が好きだからです。
──魔裟斗選手の引退を聞いたとき、闘っておきたかったという気持ちはあったのですか?
川尻 大晦日に名前が出て意識はしていたんで、チャンスがあるなら面白いんじゃないかなって思いました。
──同い年の選手として、引退する側とDREAMを背負う側。この差はありますか?
川尻 人それぞれですからね、人生。いいんじゃないですか、タレントになって頑張ってもらえれば。僕はファイターとして、死ぬまで生きて行きたい。
──魔裟斗選手はタレント活動もしていますが、その部分に関しては。
川尻 そこが最終目標っていうか、そうなんじゃないですか。よく分からないけど、出るチャンスがあれば出ればいいし、自分にとってプラスになるんだったらやった方がいいと思う。
──そういった顔を持つ相手と闘うこと自体はいかがですか。
川尻 違和感はないですよ。そういうのをうまく利用して、自分が認知されれば一番、いいと思いますよ。相手がどうこうとか関係ないです。格闘家としても結果を残しているし、芸能人だとは思ってません。
──魔裟斗選手は武田幸三戦の結果に対し、「立ち技がナメられる=俺がナメられた」と怒りを露にしていました。
川尻 ナメてね~よって思いましたけどね。こっちはK-1と武田選手に最高の敬意を払って闘ったんで、まったくナメてるつもりはない。K-1とMMA、どっちが上だと言うつもりもないんですけどね。
──心外ですか。
川尻 そう言われて、面白くはないですよね。
──インタビューで魔裟斗選手は「あっという間に倒す」、「あのパンチは当たらない」と強気のコメントを連発していました。
川尻 言うしかないでしょ。K-1のチャンピオンですから。苦戦しますなんて言えないじゃないですか。そこは圧倒するって言うしかないし、言わなきゃおかしいですよ。
──本音ではないと?
川尻 本心がどうとかじゃなくて、それはチャンピオンとして言うのが当たり前。僕がMMAでやるとしたら、笑っちゃうくらいの差があるって言うのは当たり前のことです。本心がどうとかじゃないですよ。言った上で勝負するのが当たり前なんじゃないですか。誇張でも強がりでもない。それがK-1最強の男の返しとしては、ごく普通だと思います。
■「情報という部分では僕の方が有利」
──魔裟斗選手との試合は、どんな内容になると思いますか?
川尻 厳しいとは思います。それは覚悟できてるし、1回、経験もしているしね。僕は別にK-1ルールで強くなる必要もないし、そういった練習をする必要もない。ただ魔裟斗選手に勝つためだけの練習を1カ月する。山田トレーナーは魔裟斗VS鈴木悟で鈴木選手のセコンドにも入っているし、スパーリングでシルバーウルフに行って、魔裟斗選手の練習も見ています。そういう意味ではしっかり情報もある。スパーリングをした仲間の人にも情報を訊けるし、僕の方が情報という部分では有利だと思います。
──魔裟斗選手はどういった試合をしてくると思いますか。
川尻 パンチ打って蹴ってくるんじゃないですか(笑)。K-1ってそれでしょ。作戦まではよく分からないけどね。
──川尻選手は。
川尻 俺もパンチと蹴りを出すだけですよ(笑)。出していいならタックルも寝技も出しますけど、出しちゃダメなんでしょ(苦笑)。作戦としてはパンチとキックです。ぼちぼちイメージを考えて、それに対応する体を作っている感じです。
──K-1用の体とは?
川尻 動きから間合いから違うんで、それに対応できる体を作っているところです。瞬発力もそうです。総合選手としてK-1に適応できる体を作っています。
──具体的には?
川尻 ステップから重心の高さから、上体の構えまで矯正しています。
──川尻選手にとって、この試合はどんな意味を持つのでしょうか。
川尻 俺にとって…DREAMのベルトを獲るときに、よりたくさんのお客さんに観てもらえるように、知ってもらえるチャンスになると思います。
──格闘技界全体が注目するカードです。
川尻 格闘技界自体が下火になっている中で、日本の格闘技を盛り上げるキッカケになるんじゃないですか。そういう試合にしないとダメでしょうね。
──DREAM対K-1という意識はありますか?
川尻 それはファンが意識すればいい。MMAを下に見られたくはないけど。誰でもそうだと思うけど、K-1でもキックボクシングの人でも、MMAの打撃を上から語るって部分があるじゃないですか。それはムカつきますね。もちろんキックボクシングのリングではキックボクサーが強いけど、総合の試合だったらK-1選手にも打撃で勝てる。その辺の違いを知らないで、タックルで倒される恐怖がある中での打撃を…総合の打撃はレベルが低いって言われるのは好きじゃないです。その辺では意識してるし、総合格闘技ってすごいだろってことを魔裟斗選手や他の打撃の選手にも知ってもらいたいですね。
■「控室の食べ物だけは、食べるのやめます」
──初めてK-1のリングに立ちます。
川尻 アウェーですからね。控室のおにぎりに毒が入っているかもしれない。控室の食べ物だけは、食べるのやめます(笑)。向こうからすれば敵ですから。俺からしても、まったく違う競技の人。緊張感はあるんじゃないですか。試合当日でもなんでも、味方の選手は1人もいないですからね。周りに仲間はいるけど、それ以外はK-1の選手。僕のことを敵だと思ってるでしょう。そういう中で気持ち良く勝ちたいですね。
──勝てば得るものは大きいです。
川尻 たくさん、あるんじゃないですか? 僕もドラマ出ようかな、漁師の役でもやろうかな(笑)。
──勝ったら…。
川尻 人生が変わるんじゃないですか!?
──5年前の魔裟斗VS山本“KID”徳郁はご覧になりましたか?
川尻 当時、テレビで観ました。面白いな、すごいなって思ってました。あの頃は僕、PRIDEにも出てないですからね。修斗のチャンピオンになったばかりだったから。『男祭り』を観に行ってたんで、テレビで観て面白いなってくらいです。
──そして、今度は川尻選手が魔裟斗選手と対峙します。
川尻 自分が闘うなんて思ってもなかったですからね。人生って面白いなって思います。
──たしか、初めて格闘技を観たのがK-1だったとか。
川尻 生で初めて観た格闘技がK-1でした。97年のWGP決勝大会です。東京ドームでした。
──川尻選手にとってK-1の魅力とは?
川尻 僕がK-1に出ることで、自分が得られるものは、快楽のままに闘えることです。タックルも寝技も気にしないで、気持ち良く打ち合えること。それが僕にとっての快楽ですね。打ち合ってほしい。気持ち良く打ち合いたいですもんね。やっぱり打撃って楽しいんですけど、それだけじゃ総合では勝てない。それに偏りすぎて負けてきた過去があるんで、総合格闘家としてはもっと必要なものがある。だけど、総合格闘家の僕がK-1のリングに上がって闘うのは、ファンの盛り上がりだったり、俺自身は快楽のためです。
──楽しみですね。
川尻 ローキックが痛いんで、あんまり蹴らなくてもいいんじゃないかなって(苦笑)。
──去年の武田戦の前は怖がっていましたが、今は?
川尻 今は、あの恐怖は…1回、経験しましたからね。何が怖いって、未知のものに一歩を踏み入れるのが怖いんですよ。1回、経験して感覚も分かっているし、あのときのような恐怖心はないです。
──まったくない?
川尻 対戦相手が誰であろうと、闘うことは怖いです。それ以上のものはないし…正直、僕は今、調子に乗っているんで(笑)。なんか行けちゃうんじゃないかなって。
──魔裟斗選手はそこが気に入らないのだと思います。
川尻 ナメてるわけじゃないんですけどね。現に波に乗っちゃってるから、これはどうしようもないなって。
──KID選手の“神の子”発言に対しては、自分は“普通の人間”だと話していました。
川尻 今も普通の、川尻家の子ですよ(笑)。
──でも普通の人では結果は残せません。
川尻 普通の人が頭と体を使って、ここまで残ってきたってことじゃないですか。別に自分が特別だなんて思ってません。何か特別なことがあるとすれば、よく考えることですね。練習をするのは当たり前だけど、その中でどれだけ考えられるか。
──魔裟斗選手に勝てば、MAXの王者になれると思うのでは…。
川尻 思わないですね。魔裟斗選手に勝つためだけの練習をしているので。べつにアンディ・サワーに勝つ練習はしていない。それにK-1で強くなる練習をするつもりはない。とりあえず7月13日、魔裟斗選手にだけ、3分3ラウンドだけ魔裟斗選手に勝てればいい。というか、勝つ練習をします。それが終わったらMMAファイターとして強くなる練習に戻ります。
──武田戦のあと、もう2度とK-1ルールはやらないと言っていましたよね。
川尻 見えない圧力に押されたんじゃないですか、アハハ。
──格闘技界が下火になってきたというのも影響しているわけですか。
川尻 盛り上げたいし、それが俺の生きて行く術だと思うし、すごいチャンスなんでやるなら今しかないって感覚ですけどね。
──多くの人が勝ち逃げすると思っていたはずです。
川尻 魔裟斗選手以外だったら勝ち逃げしたでしょうね。やっぱりそれは彼のネームバリューもそうだし、結果を出してきた素晴らしい選手ですから。それだったら、闘おうかなって。もう多分、最後です。これで次にK-1ルールへ出たら、見えない力が働いていると思ってください(笑)。俺は最後のつもりですから。
──本当は、魔裟斗選手と大晦日で対戦したかった?
川尻 大晦日のああいうリングだったら、ありかなって思ってました。まさかのMAXというか、完璧なアウェーだから怖いです。女性に負けろとか叫ばれたら、本当に泣きそうだもん(笑)。
──川尻選手も女性ファンが多いじゃないですか。
川尻 「魔裟斗が勝つ」、「俺が勝つ」っていう、やり取りだけはしたくない(笑)。ああいうちっちゃいやり取りは嫌です。
──魔裟斗選手はこれまで総合格闘家に負けていません。
川尻 そうだけど、KO勝ちもしてないですよね。そこまで恐怖はないです。っていうか、俺が闘うじゃないですか。それをMAXの他の選手はどう思ってんだろうな。
──世界トーナメント中ですからね。
川尻 でも日本人は1人しか出てないじゃないですか。MAXの日本人が不甲斐ないから、こうやって俺が闘うことになったと思ってるんです。そういう意味ではどうなの、それでいいの?って気持ちはありますね。
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