ホーム>

ニュース


2009年10月4日

“世界のTK”高阪剛氏がフェザー級GPの見どころを徹底解説!!
TK式『DREAM.11』直前集中講座【前編】

開催直前スペシャル! 10・6『HEIWA DREAM.11 フェザー級グランプリ2009決勝戦』(横浜アリーナ)で行われるフェザー級GP決勝ラウンドの見どころを、TBS&スカパー!DREAM中継の解説でお馴染み、“世界のTK”こと高阪剛氏が徹底解説!! 前編となる今回は、フェザー級GP決勝ラウンドの見どころを講義だ。懇切丁寧! これを読めば、『DREAM.10』が100倍面白くなること間違いなし!!

■フェザー級GP準決勝:高谷裕之vs所英男

☆Check Point①:「高谷の立つ技術」

この一戦、多くの方が「打撃の高谷vs寝技の所」という見方をしていると思いますが、私もそう思います。では、まずは高谷の試合スタイルから見ていきましょう。前回の前田吉朗戦でも、高谷はとにかくスタンドをキープし、拳で勝負をしたいと思っていたと思います。ただその戦法は、逆にテイクダウンをカウンターで取られやすいんですね。例えば、ストレートを打って腕が伸びきるタイミングでタックルに入ってこられると、タックルに対するディフェンスが遅れる。この試合では、前田はそのカウンターを狙っていたのか、自然と身体が反応したのか、そこは分からないですけど、どちらにしてもズバリのタイミングでタックルに入っていました。さらに、打撃の印象が強い前田ですが、ねちっこい寝技もできます。だから前田がトップポジションをキープし、高谷をコントロールし始めたあたりを見る限り、私は「これは前田のペースだな」と思っていました。

でも、高谷は倒されても“立つ技術”に優れているんですね。この“立つ技術”というのは寝技のディフェンスとはまた違った動きで、MMAならではの独特の技術です。高谷は「スタンドで勝負」ということと同様、この“立つ技術”を駆使して「グラウンドになったらとにかく立つ」ということも徹底していたので、中途半端に寝技に付き合うことなく、もしグラウンドになってもスタンドに戻すということを強く意識して闘っていたと思います。それをやられると、立たれた方は体力も削られるし、精神的なダメージもある。一回テイクダウンして、しっかり上のポジションを取って、そこから逃げられて立たれるというのは、これは相当ヘコみます。それを高谷が繰り返すことで、前田のスタミナを削ることにも成功したし、ミスを誘うこともできた。そんな試合でした。

そして、ここはポイントなので繰り返しますが、“立つ技術”と寝技への対応というのは違うんです。例えば、サイドポジションから鉄槌を落とされたとき、寝技での対応ということを考えると、まずは打撃をディフェンスして、そこからガードポジションに戻そうとしますよね。でも、高谷は“立つ”ということだけしか考えていませんから、亀になってバックを取られようが、パスガードされてポジションを奪われようが、最終的に立てればいい。高谷はそういう発想だと思います。

そして、それを何回も繰り返されると、相手はどうなるか? 相手のほうもスタンドをやらざるを得なくなってしまうんですね。そして、またタックルに入り直すためには相手の打撃に合わせるなど、バリエーションをいちいち変えないといけなくなります。それだけでも大変なのに、倒しても倒しても立ち上がられてしまったら……。肉体的にも精神的にも疲労していき、普通ならかわせる打撃でも喰らってしまいます。その他にも「実はこのパンチは見せパンチで、他に何かあるんじゃないか!?」とか、いろいろなことを考えだしてしまうんですね。こうなってしまうと試合の中で迷いが現れだし、反応が遅れたりして打撃を被弾してしまうんです。高谷は右でも左でも倒せるパンチを持っていて豪快なKOが魅力ですが、その裏にはこの“立つ技術”が隠されているんですね。

所との一戦でも高谷はスタンドでの打撃で勝負をするでしょう。ということは「いかにスタンドをキープするか」が鍵になってきますから、今回もこの“立つ技術”というのが重要になってきます。決勝ラウンドでは、高谷のこの部分に注目してみてください。

☆Check Point②:「所の“キワ”のない寝技」

対して、寝技の所。所の寝技というのは、一つの技に固執するのではなく、最初の技のディフェンスを相手がしてきたら、その次、その次とどんどん動きを切り替えていって、5〜6個くらいの動きを繋げて初めて一つの技とする──という感じなんです。しかも、その技と技の繋ぎ目、寝技における“キワ”ですが、その“キワ”がない寝技をするんですね。動きに“キワ”があると、技がぶつ切りになるので対応しやすい。だけど、所の寝技にはそれがないので、相手が対応しきれないんです。例えば腕十字から三角絞めに移行するとき、一回足をゆるめて三角に移行すると、相手側もそれを感じて三角への対処をします。でも所の場合、相手は「十字を仕掛けられていたはずなのに、なんで首が苦しいんだ?」と、三角に変化されていることに気付かないくらいなめらかな寝技をするんです。そして、気付いたときにはもうその対処は遅れているので、そこからディフェンスを入れても、所は次の技に移行している。結果、全部後手後手になってしまうんですね。そうなるともう、所のペースです。一発強力な関節技や絞め技というので勝負するのではなく、いくつもの技を繋げて最終的には極める。所はそういう寝技をするんです。

高谷との一戦、所としてはスタンドはやりたくないでしょう。ということは、所がテイクダウンを取れるかどうかというのが一つのポイントになります。そして、所がテイクダウンを取っても必ず高谷は立ってくるでしょうから、その立ってくる“キワ”で所が何をするか? そこもポイントです。所は、自分の“キワ”をなくすことも得意ですが、相手の動きの“キワ”に自分の技を差すのも上手なんですね。例えば、立ち際に打撃を入れて相手のバックに回る、といったように。そのあたりの動きに注目ですね。

そして、もう一つ。今回、所がどんな精神状態で試合に臨むか? というところ。前回のエイブル・カラム戦、所は「後がない」という緊張感もありつつ「一回負けた身だから思い切っていくだけ」という落ち着きもあり、非常にいい状態で臨めていたと思うのです。それによって、普段の所の動き+α何かがくっついていたような感じがしました。打撃にしても寝技にしても、出す技や動きはいつもの所と何も変わっていなかったのですが、例えばタックルに行ってそれを凌がれたとき、いつもならすぐに変化するところをもう一押し押してから次の展開に変えていくとか。だからカラムは、展開を変えられたときの反応が遅れていたんですね。そのような動きというのは、メンタル的にいい状態のときでないと出てこないんです。さて、今回の試合での所はどうか? これもポイントの一つになると思います。

■フェザー級GP準決勝:ジョー・ウォーレンvsビビアーノ・フェルナンデス

☆Check Point①:「ビビアーノの昔と今」

1回戦、2回戦と終わる毎に「ビビアーノが優勝候補」という声を多く聞くようになりました。確かに、フィジカル、一級品の寝技、安定した試合運び、間違いなくフェザー級トップファイターの一人でしょう。ただ! 今回、このタイミングでジョー・ウォーレンが相手となると、どうでしょう? 自分は……ひょっとしたら、ウォーレンに分があるんじゃないかなと思うんです。その理由とは……。

ご存知のとおり、ビビアーノは寝技のスペシャリスト。テイクダウンを取って寝技で勝負をするんですけど、自分から闇雲にタックルで攻め立てるというよりも、カウンターでテイクダウンを狙うというスタイル。つまり、相手が打撃を出してきたところ、もしくは前に出たところにタックルを合わせるんですね。しかもそのカウンターを自分自身で作っています。最初は自分から打撃を出し、相手が反撃してきたときにタックル──というような感じなんです。ビビアーノの闘いぶりを見ると、最初からそれを狙っていることが窺えます。なぜなら、とっさに入ったカウンターのタックルというのは、足の踏ん張りが利かずに潰されてしまうことが多いんです。しかし、ビビアーノは押し切って、毎回上を取っていますよね。それはつまり、最初からタックルを出すことを頭に入れて打撃を使っていたからだと思うのです。

しかし、テイクダウンしてから後の寝技の展開は、昔と違う印象を受けます。自分が不利になる可能性のある寝技は極力しないようになった。いわゆる“ギャンブル技”をやらなくなっています。もし極められなかった場合、自分が下になるような技は、極力しない。それよりも上からパウンドを落とす。かつてKIDと闘ったとき(07年9月、HERO’S)は、テイクダウンしてからすぐに腕十字を狙いに行った場面がありましたが、もうそのような動きは見せないんじゃないか……と思います。今回のフェザー級1回戦の大塚隆史戦のときも、上のポジションを取っても、腕十字をセットするような気配は見えませんでしたよね。要は「安全に勝つ」ということをメインに試合を組み立てようとしているんじゃないかなと思うのです。

☆Check Point②:「常識が通じないウォーレン」

一方のウォーレンですが、1回戦でチェイス・ビービ、2回戦で山本“KID”徳郁を倒して決勝ラウンドに進出しました。デビューしていきなり総合格闘技界の超ビッグネームに連勝した強さの秘密はどこにあるのでしょうか?

近年、総合格闘技の技術はかなりレベルが上がり、それに対する“HOW TO”も相当できあがっていて、トップレベルの選手であればあるほどそれが頭に入っているのが現状なのですが、ウォーレンはそれを“0”にしてしまうんです。「この状態からタックルは来れないだろう」というところや、「ここで打撃は出せないだろう」というところで、ウォーレンはテイクダウンを取ったりヒザ蹴りを出したりする。つまり、“総合格闘技の常識は、ウォーレンには当てはまらない”ということなんですね。世界選手権を制したレスリング技術、フィジカル、スタミナに加え、常識破りな攻撃パターン。これは相手にとっては非常に戦略が立てづらいでしょう。

☆Check Point③:「ギャンブル技」

さて、そんなビビアーノとウォーレンが対峙したとき、どんなシーンが想像できるか? ビビアーノがカウンターのタックルを狙おうと誘いのパンチを出しても、ウォーレンは打ち返してはこないで構わずタックルに来る。ウォーレンは顔面にパンチをもらいながらも突っ込んでくる──。ビビアーノにとっては「なんで!?」と思うことが次々に起こると思うのです。「なんで!?」と思うと、その分、対応は遅れます。ウォーレンがノーガードで手を広げてただ前に出てくるシーンがチェイス・ビービ戦の時に何回かありました。そのときはビービも真後ろに下がっていましたからね。「こいつは一体、何をする気なんだ!?」と(笑)。ビービのような、総合のセオリーであったり、技の移り変わりとかをしっかり学んできた選手であればあるほど、ウォーレンの動きは理解できないはず。それはビビアーノもしかり──だと思うのです。

では、ビビアーノがウォーレンに勝つにはどうすればいいか? 「かつてビビアーノが見せていた“ギャンブル技”をできるかどうか」だと、私は思うのです。先程も言いましたが、ビビアーノが前の2試合と同じような試合展開をしようとしても、ウォーレンは乗ってこないでしょう。カウンターのタックルを狙って打撃を出しても、ウォーレンは打ち返しては来ないと思います。そこで乗ってくるのを待っていたら、ウォーレンがどんどん圧力を掛けて前に出てくる。そうなると、何かこれといったことが起きていないし、特にポイントとなる攻撃もないんだけど、判定となったら「ジョー・ウォーレン!!」……というような展開になる可能性は高いんじゃないでしょうか? ビビアーノが一本負け、KO負けするとは思えません。しかし、最終的に判定となったときに、ジャッジの人たちは「これ……ウォーレンだよねぇ?」となってしまうと思うんです。

そして、例えこの判定でビビアーノが勝ったとしても、体力を削られまくったまま決勝を迎えることとなります。一方、ウォーレンが勝った場合、何一つ変わらない状態で決勝を迎えると思います。スタミナに関してはウォーレンはバケモノなんで、まったく問題はないでしょう。ならば、ビビアーノがウォーレンに勝って、そしてなるべく体力を残したまま決勝に行くためには、封印していたギャンブル的な寝技をここで解くしかないと思います。ウォーレンは今回の試合でデビュー3戦目。寝技の対処はそこまで細かくはできないでしょうから、思い切って出せば極めれる可能性はあると思います。さて、ビビアーノはどんな手段でウォーレンを攻略しようとするのでしょうか? 非常に楽しみです!

■フェザー級GPリザーブマッチ:DJ.taiki vs宮田和幸

☆Check Point①:「フェザー級の宮田」

今年になってからの宮田を見ていると、今までウィークポイントと指摘されていたスタミナ、寝技の対処という部分が、今年から階級をフェザー級に変えたことによって、かなり改善されていると感じます。6月に行われた『DEEP42』の山崎剛戦を見ても、後半になっても失速しませんでしたし、試合の中で自分の動きというのを確実にできていた様に見えました。それは、階級を落としたから新しく手に入れられたというよりも、「練習やスパーリングではできていたけども試合になるとなぜか出せなかった」というような技や動きが、フェザー級に階級を下げたことによってできるようになっていると思うんです。ちょっとした動きがやりやすくなることによって、息の上がり方もまったく変わってきます。これまでライト級(70キロ以下)で闘ってきた宮田ですが、ここ何試合かを見る限り、フェザー級は適正階級だと思います。これは宮田自身も未知の領域だったので不安もあったでしょうが、いろいろとできるようになっていく自分を感じると、練習していても相当楽しいと思うので、今回は非常にいい精神状態で試合に臨めると思います。ただ、DREAMフェザー級は63キロ。減量だけが心配ですね。もともと脂肪の少ないあの身体ですから、減量は相当しんどいと思います。

☆Check Point②:「DJの“ライフルと拳銃”」

超一流のレスリング技術に打撃も寝技もできるトータルファイターの宮田に対し、DJは(本人も言っているように)打撃に特化した選手です。DJの打撃の特徴というのは、特にストレート系のパンチが凄く伸びてくるということ。見た目、確かに手足は長く見えるんですけど、それだけじゃないと思うんです。リーチの長さだけじゃなく、身体全体を使って真っ直ぐ相手にパンチを届かせる打ち方ができる。そして、相手がそれをもらわないように距離を潰そうとして中に入ってきたときのフック、ヒザ蹴り。「ライフルしか持ってないな」と思ったら、「おいおい、拳銃も持ってたのかよ!」みたいな感じでしょうか。距離を巧く使い分けているので、相手にとってはやりづらいでしょう。

しかも、相手としてはタックルに入ってテイクダウンを取ろうとしても、タックルを切る技術もしっかり持っている。DJは自分のウィークポイントである寝技をやりたくないから、本能的にそこの技術は備わっていったんだと思いますけど、その反応はかなりいい方ですね。

☆Check Point③:「トップコンテンダーになるのは?」

打撃のDJに対し、宮田は得意のタックルでテイクダウンを狙う……と思うのですが、今の宮田の状態は凄くいいと思うので、タックルに入るフェイントを入れてから打撃を打つなど、打撃で勝負しても面白いんじゃないかと思います。そうなったら、さらに新しい宮田が見られると思うんです。もちろんGPのリザーブマッチですから、決勝に行く可能性もあるので大事に勝ちに行くことも大切なんですけど、そこは挑戦する価値はあると思うんですよね。DJのような長い打撃と短い打撃を使い分ける選手を相手に、タックルを打撃の一部として使うことができ勝利すれば、一気にフェザー級のトップコンテンダーとなれるんじゃないかと思います。

一方のDJは、立っても寝ても打撃勝負。戦績を見るとレスラーには分が悪いですが、4月に所に勝って、ここで宮田にも勝つことになれば、やはりフェザー級のトップ戦線に食い込む存在となるでしょう。GP準決勝の組み合わせを見る限り、リザーブから決勝に進出する可能性はそう高くないと思いますが、その後のDREAMフェザー級を占う上で、この一戦は非常に重要な一戦になると思います。

【※後編では、ライト級タイトルマッチ、スーパーハルクトーナメント準決勝の見どころを徹底講座!! 乞うご期待!!!!】