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2009年10月5日

“世界のTK”高阪剛氏がライト級王座戦、スーパーハルクTの見どころを徹底解説!!
TK式『DREAM.11』直前集中講座【後編】

TBS&スカパー!DREAM中継の解説でお馴染み、“世界のTK”こと高阪剛氏が、10・6『HEIWA DREAM.11 フェザー級グランプリ2009決勝戦』(横浜アリーナ)の見どころを徹底解説!! 後編となる今回は、ライト級タイトルマッチ、スーパーハルクトーナメント準決勝の見方をレクチャーだ!!

■DREAMライト級タイトルマッチ:ヨアキム・ハンセンvs青木真也

☆Check Point①:「過去2回、それぞれの勝因」

青木とヨアキムは、今回で3度目の対決です。1回目は、06年大晦日の『PRIDE男祭り』で激突し、青木の一本勝ち。2回目は、08年7月の『DREAM.5』で、そのときはヨアキムがTKOで勝利を収めています。まずは、過去2回のそれぞれの勝因について考えてみたいと思います。

ヨアキムって“総合格闘技レベル”が非常に高いんですね。いろんな動きに対応できて、逆にそれを出させないようにしながら自分が勝つという試合展開をしていく。で、逆にそういう相手であればあるほど強さを発揮するのが青木なんです。それはなんでかと言うと、自分が仕掛ける動きにいちいち相手が反応してくれるから、罠に掛けやすい。自分の術中にハメられるんですね。それを特に感じたのが、前々回、06年大晦日でのハンセンとの試合だったんです。あのとき青木はラバーガードからオモプラッタを狙いつつ最終的にはフットチョーク。青木にしてみたら、次に動いてくれるであろう動き、タイミングを、先読みした状態で技を仕掛けていったんですね。結果、青木の一本勝ち。本当に見事な展開作りでした。

しかし、前回の試合は、仰向けの状態の青木に対し、ヨアキムがスタンドからパンチを打ち下ろし勝負が決まりました。青木にしてみたらヨアキムにガードの中に入ってきてほしかったと思うんですが、前回、ヨアキムはそこでやられていますから、入ってはきませんでした。そこでヨアキムは、自分の動きを青木に読まれないように、一発で試合を決めるやり方を取ったと思うんです。しかも、もし寝技の展開になっても、一回何か仕掛けて、それが失敗したらそれ以上深追いはしないように心掛けていたと思うんです。深追いすればするほど、どんどん青木のペースになっていきますからね。「深追いをしない」と心掛けた結果が、KO勝ちに繋がったんだと思います。

☆Check Point②:「青木の中の総合格闘技の幅」

ヨアキムは前回、「深追いをせず、一発勝負」という青木に対する対処の仕方を見せた。ヨアキムは今回も同じ考えで来るんじゃないかと思います。しかし、青木はこの一年、いくつもの修羅場をくぐり、それによって彼の中の総合格闘技の幅がかなり拡がった。また前回のシャオリン戦でスタンドの展開での自分の居場所というのも何か掴んだと思います。

それぞれの選手が手に入れることができる技術というのは限りがありますが、総合格闘技ではそれぞれの技術を繋ぎ合わせることによって、展開の数が物凄く拡がります。青木は寝技に関してはかなり高い技術レベルを見せていますが、そこに前回見せたスタンドでの打撃技術が加わることによって、青木の中の総合格闘技の幅はかなり拡がるんです。「立ってもオレ、うるさいよ」ということを見せつつの寝技をやるだけで、相手に対してかなりの揺さぶりを掛けることができるんですね。その片鱗を前回のシャオリン戦で見せられたのは青木にとって大きいと思いますし、さらに試合までにまた違う何かが加わり、その幅を拡げられているかも注目です。

☆Check Point③:「ヨアキムの攻撃のアクセント」

ヨアキムは、1年3ヵ月ぶりの復帰戦、しかも休場明け。対する青木はここ一年いくつもの良い経験をしてきて総合格闘家としての幅も拡がってきている。しかし、その要因だけで「青木有利だな」……と思うのは早合点です。もちろん昨年末の休場以来、いつからどのレベルのトレーニングができていたのかは分かりません。ただ、その不安要素を並べただけで「青木の圧勝だろう」と考えるには、ヨアキムは危険すぎるファイターです。ヨアキムは、打撃、テイクダウン、寝技、すべてにおいて均整の取れた高い技術を持っている。繰り返しますけど、DREAMに参戦しているすべての選手の中で考えても、ヨアキムの“総合格闘技レベル”は相当高いです。

当然、ヨアキムは青木の活躍を見ているでしょうし、先述した技術の幅が拡がっているというのも感じているでしょう。そんな青木に対しヨアキムは、前回同様「深追いをせず、一発勝負」という戦術を取ると思うのですが、その中にヨアキムにしかできない攻撃のアクセントをどこかに組み入れてくると思います。すべてにおいて高い技術を持っている彼だからこそ、何か一つアクセントを加えるだけで、相手を揺さぶることができる。それは、いつどこで出す何なのか? 私はヨアキムのそれに注目したいと思います。

ヨアキムはDREAMのチャンピオンです。虎の子のベルトは絶対に死守するという強い気持ちで今回の試合に臨むはずですから、想定外の力が加わることもありえます。青木は今までの自分自身を総動員して試合をしないと、ヨアキムを破ることは難しいでしょう。選手は試合までにいろいろとプランを考えて準備をしますが、実際にリングに上がり、試合をやっている最中にそれとは違った技や動きを身体が勝手にやってくれていることがあるんです。そういった感性、そしてもちろん技術、体力、経験。それらすべて含めて青木真也を総動員することができれば、10月6日、DREAMライト級の新チャンピオンが誕生するはずです。

■スーパーハルクトーナメント準決勝:チェ・ホンマンvsミノワマン

☆Check Point①:「ミノワマンの経験」

体重で61キロ差ですか……。自分が現役時代、30キロ差というのはありましたけど、そうですか……、61キロですか。61キロって言ったら、人一人分ですからね。2人を同時に相手にするようなもんです。でも! 「ミノワマンだったらなんとかしてくれるんじゃないか!?」という期待は持てるんです。

これまでのミノワマンの試合を見ても、そして今回の試合も「いかにミノワマンが寝技の展開から足関節の態勢に入るか?」というのが注目されるところ。これは確かにそうなんですけど、それ以前の問題として、今回はリングの使い方がポイントになると思います。7メートル四方のリングの中で2メートル以上の人間を前にして立つということは、ミノワマンには相当狭く感じることでしょう。一方のホンマンにしてみたら、相手としてミノワマンは捕らえやすい、ちょうど手頃なサイズに見えると思うのです。リングの使い方、これが重要になってくると思います。

ですが、これまでもミノワマンは今回と同じようなシチュエーションを経験しています。その際、ミノワマンは、前転して相手の懐に飛び込んだり、ドロップキックを一発入れて組み付いたりして、それを克服してきました。ミノワマンほど体格差のある選手との対戦経験がある選手はいないでしょうし、そもそもみんなやりたがらないでしょう(笑)。その経験は大きいです。今回も「あっ!」と驚く仕掛けで、先手を取ろうとしているんじゃないでしょうか。

☆Check Point②:「ホンマンの下半身の安定性」

と、ここまで語ってきてなんですが、今度の相手がチェ・ホンマンということで、「ちょっと今まで通りにはいかないんじゃないか?」と思うのです。ホンマンは、これまでミノワマンが闘ってきたスーパーヘビー級ファイターとはワケが違います。07年大晦日の『やれんのか!』でのエメリヤーエンコ・ヒョードル戦が印象的なんですけど、あのヒョードルが組み付いてもテイクダウンには至らなかったんですよね。あれだけ背が高いと重心が高い位置にあるので、下半身の安定性というのがちょっと弱くなってしまうものですが、ホンマンはそうではなかった。さすがシルムのトップに立った男。ヒザの使い方が凄く上手なんですよね。自分の身体とマッチしたヒザの使い方を心得ているんです。だから、ミノワマンが、例えば片足タックルでテイクダウンを取ろうとして足をロックしたとしても、うまく倒せるかどうか……。

☆Check Point③:「本能」

では、どうするか? 私が想像するに、タックルでテイクダウンを取れなくても、ミノワマンの発想で試合をすれば後ろに回り込むことはできると思うんです。この試合のポイントは、バックを取れるかどうか? 私はそう思います。バックが取れば、例えばおんぶスリーパーとか、ミノワマンならなんとかするんじゃないかと思うのです。

しかし、どんな方法を取っても、その動作に躊躇があって、一発でもパンチをもらったら効いちゃうと思います。さらにもう一つ心配なのが、もし不用意にタックルに入って潰されたとき、それだけで深刻なダメージを負う可能性があるということ……。ホンマンが、タックルを切って、潰して、腹でミノワマンの身体をプレスするだけで、ヘタしたら肋骨が折れてしまう恐れもあると思うのです。今回、ミノワマンにとっては、本当に命懸けの一戦だと思います。

そこで、今回のミノワマンのテーマに注目してみました。『ミノワマン第14話“本能の巻”』。まさにミノワマンの防衛本能が働けば、ホンマン攻略の糸口は向かい合ったときに感じると思うのです。スーパーハルクトーナメント準決勝に出場する4選手の中で、ミノワマンだけが唯一、“攻撃本能”ではなく“防衛本能”で闘うことになるでしょう。自分を守るためには、ただ一つ──勝つしかない。でも、逆にそこは他の3選手と比べ体格差で劣るミノワマンにとって、最大の武器になる要素だと思います。他の3選手は攻撃一辺倒で試合を行うでしょうから、逆にダメージを負う確立も高い。決勝戦がいつ行われるか分かりませんが、仮に約3ヵ月後の大晦日に行われるとしても、ダメージが少なくすぐに次の試合に向けての準備が始められる可能性は、ミノワマンが一番高いのではないかと思うのです。ミノワマンの防衛本能がフル稼働したときこそ、ミノワマンが“超人”の領域に入った瞬間──。私は、ミノワマンの“本能”に期待したいと思います。

■スーパーハルクトーナメント:ソクジュvsボブ・サップ

☆Check Point①:「ソクジュの動物的勘」

ソクジュはトータル的にバランスが取れているんですけど、特筆すべきは、反応のスピードが動物的だということ。ちょっと人間っぽくないんですよね。“動物的勘=勝負の勘”というのが、常人以上に発達していると思うのです。

例えば、07年2月にアメリカで行われた『PRIDE.33』のアントニオ・ホジェリオ・ノゲイラ戦。あのときソクジュは右ハイキックから左フックでホジェリオをKOしたんですけど、蹴りを出した後の手を出すスピードが、あの体重の持ち主ではあり得ないスピードだったんですよね。しかも、当時まだ経験が浅い中であのように打てるというのは、技術だけではない。蹴って当たった足の感触だけで、「ここは畳み掛けるところだ」と身体が判断し次のパンチが出た──と思うのです。一回戦のヤン“ザ・ジャイアント”ノルキヤ戦もそうでした。パンチが入って「効いたな」と思って、そこからの畳み掛けが恐ろしく速いんですよね。「獣のようだ」と表現されますが、まさしくそんな感じです。

☆Check Point②:「ボブが獣に戻れるか」

一方、ボブに関してですが、“元祖・獣”はボブだったはずなんですね。しかし、言い方はおかしいですけど、どんどん人間になってきちゃった……。そこは闘いなんだから、獣のほうがいいに決まっています。だから、今回の試合に関しても、勝利するにはただ一つ、「いかに獣の頃のボブ・サップに戻れるか?」だけだと思います。

では、獣に戻るにはどうしたらいいか? これは非常に難しいのですが、トレーニングに関して言うならば、極端に言うと、練習はフィジカルだけで、技術は無視していいと思います。ボブって、意外と細かい技術とかを練習したがるんですよ。頭がいいから。特に寝技はそうなんですけど、一つの技術を覚えると、そこからいろいろな方向に細かく技術が枝分かれしていくのですが、それらを覚えていこうとする作業というのは非常に楽しいんですね。因数分解が解けていくような感覚というか。ボブは、おそらくその部分に気付いちゃった。さらに総合になると、そこに打撃やテイクダウンなどいろいろな要素が加わってどんどん難解になっていく。それを紐解いていくことにウェートを置き過ぎているんじゃないかと思うんです。そうなると、技術は覚えますが、それと反比例して獣的要素はなくなっていく。今のボブはまさにその状態にあると言えるのではないでしょうか。

しかし、獣に飾りはいりません。そこはもう一回、真っ裸になって、素のままのボブ・サップとして試合に向かってほしいと思います。かつてのように、勝利に対する嗅覚だけで試合をやるボブに戻れば、ソクジュと比較した場合、同じ獣同士でもフィジカルは断然ボブのほうが上だと思うんです。かつて、NFLで活躍した選手です。元々、持っているものが違います。強靱なフィジカルと獣的感性だけを持ってリングに上がれば、凄まじい獣対決が見られるでしょう。すべてはボブの状態次第です。