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2010年4月14日

「相手に何もさせず一撃で終わらすのが理想です」
菊野克紀インタビュー

3・22『DREAM.13』(横浜アリーナ)で行われたライト級ワンマッチで弘中邦佳に勝利した菊野克紀にインタビュー。見事なKO勝利を収めた弘中戦、そして気になる今後についても語ってもらった。【取材日:2010年4月1日】

■「闘うときは緊張していたほうがいい」

──『DREAM.13』弘中邦佳戦は見事な勝利でした!
菊野 ありがとうございます(笑)。
──今は笑顔ですけど、試合後はあまり喜びを露わにしていませんでしたよね?
菊野 そうなんですよね。映像を見てもらえば分かると思うんですけど、試合直後も全然喜んでないんですよ。引きつったままで。もちろん緊張が解けていなかったというのもあるんですけど、相手が仲良くさせていただいている弘中選手というのもありましたし、弘中選手が呆然とされているのを見て、明日の我が身を思うというか、ほんと勝負は紙一重なので、複雑な心境でしたね。喜びはなくて、ずっとこんな感じが続くんだろうなと思って、安堵すらできてない状態でしたね。
──試合から10日が経ちましたが、今はどうですか?
菊野 今はしみじみと安堵してますね。試合終わって、いろんな方に祝福していただいたりだとか、勝ったからこそできること、例えば、いろんなイベントに参加させていただいたり、応援していただいている方や支えていただいているスポンサーさんに試合の報告に行くのでも「負けました……」と「勝ちました!」では全然違うんですよね。そういうのが負けたらできなかったわけですし、とりあえず今は勝ててほっとしています。
──その安堵の表情からしても、相当なプレッシャーだったんだと想像できます。
菊野 プレッシャーはありましたね。というか、今回はプレッシャーを感じるようにしました。去年の10月の(エディ・)アルバレス戦ではリラックスしすぎて頭も体も全然動かなかったので、やっぱり試合のときはリラックスしちゃダメだなと思ったんです。ですから今回はいっぱいプレッシャーを感じて、緊張して、集中してやるようにしました。

──自らにプレッシャーを与えていって、アルバレス戦のときの動きとは違いましたか?
菊野 違いましたね。映像を見ていただけると分かると思うんですけど、アルバレス戦のときはまったく反応ができてないし、後手後手になっていて、やりたいことがまったくできなかったんです。でも、今回はやりたいことができました。
──緊張すると硬くなってしまう人もいると思うのですが。
菊野 はい。でも、緊張することで、臨戦態勢になるというか、呼吸が速まり、血圧が上がり、血流が活発化することで、体が動きやすかったり頭の回転が速くなったりするらしいんです。「危ない!」と思ったときに反応するには、そういった緊張状態が必要みたいなんですよね。火事場のくそ力が出やすい状態というか。逆にリラックスするというのは、体の仕組み上、体を休めようという力が働くそうなんです。ですから、闘うときにリラックスするというのはあまり好ましくない状況らしいんです。もちろん、リラックスしたほうが闘いやすいという方もいますし、人それぞれなんですけど、僕は「闘うときは緊張していたほうがいい」という結論でしたね。
──「リラックスしすぎた」という前回の反省点をしっかり活かしたわけですね。
菊野 やっぱり前回の負けというのが大きかったんですよ。それまで勝ってきたので、気持ちの部分で負けたときの反動というのは大きかったですし、「次、負けたらやばい」というのも感じていたので、勝つためにいろいろ考えたんです。で、期間も5ヵ月空いたので、技術的にも精神的にも練り直して、絶対に勝てる状態にもってくることができました。
──念願の大晦日参戦は果たせませんでしたけど、逆に5ヵ月間空いたというのは菊野選手にとって……。
菊野 よかったと思いますね。負けたことも含めて。試合がガンガン続くと、自分の練習というのができないんですよね。その相手に勝つための練習がメインになるので、体作りであったり、自分のスタイルの再構築といった、自分自身が強くなる練習というのはなかなかできないんです。ですから、今回5ヶ月間空いたというのは、自分にとって大きなプラスになったと思います。でも、すごく試行錯誤しましたから、一緒にスパーリングする仲間たちは「菊野は悩んでいるんだろうな……」と感じていたと思います。例えば、思いっきり空手に寄ったスタイルでスパーリングやったりとか、かと思えばボクシングに寄ったスタイルとか、みんな「菊野は迷走している」と思ったと思いますし、実際、迷っていましたからね。そんな中、ギリギリで、それこそ試合の10日前とかに「これならば勝てる!」というのが見つかったんです。
──ということは、弘中戦が決定した後ですね?
菊野 そうなんです。(2月25日の)記者会見の頃はまだ迷っていました。そのときはまだ自信がなかったので、緊張やら不安であまり顔もパッとしていなかったと思うんですよ。でも、「これで絶対大丈夫!」というのを見つけてからは、表情も変わっていたと思います。
──「これだ!」と気付いたのには何かキッカケはあったんですか?
菊野 2月はALLIANCEの仲間の試合が続いたので、あまり練習仲間がいなかったんですよね。ですから、吉田道場さんに出稽古に行かせてもらっていたんです。僕は打撃でボコボコ打ち合うのは好きじゃなくて、それは武道的に正しくないからなんですけど、理想としては、相手が組みに来たところ、打撃で来たところを一発で倒す、というスタイルを常に模索しているんです。で、吉田道場さんは組み技が得意な選手が多いんですよね。弘中さんも組み技が得意ですし、組みに来た相手に対して一撃で倒す、もしくは組ませないようにするいい練習ができて、そこで一つの答えが出たんです。
──格好の出稽古先だったわけですね。
菊野 そうなんです。
──出稽古って今までしてこなかったですよね?
菊野 はい。これはDREAMモバイルサイトのコラムでも書いたんですけど、自分のスタイルは特殊なので見せないほうがいいと思っていて、出稽古は避けていたんです。ほんと久しぶりでしたね。それこそ弘中さんのところに行っていた以来でした。

■「相手が青木選手だったらと仮定した場合……」

──実際に弘中戦を振り返ってみていかがですか。
菊野 自分のやりたいことができた、イメージ通り闘えたという試合でしたね。今回は1分半くらいで終わったじゃないですか。
──試合時間は1R1分26秒でした。
菊野 イメージの中では1分から1分半くらいで倒すだろうとイメージしていたんですよ。で、試合が始まった瞬間、お互い一瞬寄るんですけど、もうちょっと寄った瞬間に弘中さんが一瞬下がったんです。多分、あれ以上近づくのはイヤだと感じて。その瞬間に僕は試合が決まったと思いました。
──昨年4月のDEEPライト級タイトルマッチ、松本晃市郎戦、DREAMでのアンドレ・ジダ戦、エディ・アルバレス戦のときと比べて、積極的に自分から攻撃していったように見えたのですが。
菊野 僕の中では、「始め!」と言われたらツカツカツカと相手に向かって歩いていって、バコンッと一発で仕留めるのが究極の理想なんです。相手に何もさせず、何もできないような状況にして一撃で終わらせたい。でも、まだそのレベルまで僕はいってなくて、今その目標に向かって試行錯誤している状況なんですね。松本戦、ジダ戦、アルバレス戦では、カウンターを狙っているような感じで“待ち”の姿勢だったんですけど、本当はそのときも自分から前に出て行きたかったんですけど、前に出てカウンターを合わせる自信がまだなかったんです。逆に前に行った瞬間にやられる可能性があるから、待って、研ぎ澄まして、打ち返す、というスタイルだったんですけど、今回は前に出てもカウンターを取れる自信があったんです。前に出てどんな攻撃が来ても先にこっちが攻撃を当てる自信があったので、ああいうふうになったんです。ですから、理想に近づくための今のスタイルがあれだった、ということですね。
──ということは、次の試合でもまったく違うスタイルになっているかもしれないと。
菊野 自分で言うのもなんですが、今自分は成長過程にいると思います。ですから、今回の試合も次回試合するときの参考にはならないと思いますね。やはり今回の試合からも課題、反省点というのは見つかってますし、またそこを修正していきますからね。
──具体的な課題、反省点というのは?
菊野 やはり何発か(打撃を)打ったってことですよね。一撃で倒せなかったこと。ここが今後の課題ですよね。というのも、青木選手に勝つためにはそれが必要だと思うんです。コンタクトの瞬間に一撃で倒さなくては、青木選手に勝つのは難しい。弘中さんとの試合では2度、四つの状態になったんですが、四つの状態からだったら僕が倒されることはまずありません。よっぽどの力の差がないとあの状態からは倒されることはないんです。でも、相手が青木選手だったらと仮定した場合、引き込まれることも想定できますし、組むことによって青木選手にチャンスを与えてしまうことになるんですよね。他の選手でしたら組むということも考えられますが、青木選手と闘うということを想定すれば、組ませたらダメだなというのはあります。
──青木戦というのを想定してと。
菊野 僕は強い選手と闘うということに欲求があるんです。チャンピオンになるということ以上に、青木選手だとかBJペン選手とか、強い選手に勝ちたいという思いのほうが強いんです。ですから、常にそういった強い選手に勝つにはどうしたらいいかをイメージしながら日々練習しています。特にBJペン選手なんかは、TKチャートで言ったらオール5じゃないですか。オール5の選手に勝つには、他がオール3でもいいから、何か一個飛び出て6以上になっていないと勝てないと思うんです。青木選手は組み技が6以上だから、BJペン選手と闘っても勝つ可能性がある。僕の場合、やはりそこは打撃で特化したいんです。強い選手に対してどうすればいいかというのを常に考えて、より研ぎ澄まして“一撃で倒す”という形に向かって、進化していきたいと思います。
──今後の話なんですけど、笹原圭一DREAMイベント・プロデューサーはDREAMモバイルサイトのコラムで「まずは、強豪外国人選手との対戦。外国人選手を越えてきたときに初めて、青木&川尻の背中がぼんやり見えてくる」というような話をされているんですけど、菊野選手自身はどのように感じられていますか?
菊野 僕もそうだろうなと思います。漠然と「次はJ.Z.カルバン選手やKJ・ヌーン選手とかかな?」と思っていますし。やっぱり青木選手、川尻選手というのは実績がすごいので、彼らにとって闘うメリットがあるような存在になってからやりたいんですよね。僕からだけじゃなくて、向こうにも「やりたい」と言ってほしいし、周りの皆さんも「やれやれ!」というような状況を作っていきたいので、そのためにはその他をブッ倒すしかないと思っています。
──ストライクフォースとの提携が強化され、今月17日には青木選手が海を渡りストライクフォースでライト級王者のギルバート・メレンデス選手と対戦します。菊野選手はその提携による対抗戦というのに興味は?
菊野 もちろんそういうお話しがあればウェルカムですね。海外で試合をするというのも興味ありますけど、日本のファンの方に見てもらいたいという気持ちもありますし、そこはお任せします。でも、青木選手には勝ってほしいです。
──菊野選手は青木vsメレンデスというのをどう予想されますか?
菊野 青木選手がいつものパフォーマンスを出せれば、問題なく勝てると思います。アメリカでもいつものパフォーマンスは出せると思いますし。だって、普通では考えられないほど、青木選手はキツイ試合をずっとしてきているじゃないですか。シャオリンとやってハンセンとやって廣田選手とやって、そして今度はメレンデス……。そういった試合を何度も乗り越えているというのは、今の僕から想像すると「タフだなぁ」と思いますね。ほんとハートが強い選手だと思います。勝ってほしいですし、僕と闘うまでは無敗でいてほしいですね。
──最後にファンへメッセージをお願いできますか。
菊野 ジダ戦に勝ったときにも言ったんですけど、日本人が誇りに思ってもらえるような試合をしたいです。日本の武道で、日本の心を持って、日本の格闘家として勝ち続けていきたいと思います。頑張ります!